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2025.06.25コラム

企業が今すぐ取り組むべきビジネスケアラー支援:介護離職を防ぎ、生産性を高める実践戦略

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超高齢社会の日本で、働きながら家族の介護を担う「ビジネスケアラー」は増加の一途をたどっています。彼らが直面する課題は、個人の問題に留まらず、企業の生産性低下や人材流出といった深刻な経営リスクに直結します。本記事では、人事・勤怠管理担当者の皆様が知っておくべきビジネスケアラーの現状と、2025年4月施行の法改正への対応、そして介護離職を防ぎ、企業の持続的成長を支えるための具体的な支援策を、実践的な視点から徹底解説します。

目次

1. ビジネスケアラー問題は「他人事」ではない:企業が直面する深刻な影響
2. 2025年4月施行!改正育児・介護休業法が企業に求める対応
3. 介護と仕事の両立を支える具体的な企業支援策
4. 先進企業の成功事例に学ぶビジネスケアラー支援のヒント
5. 人事・勤怠管理担当者が果たすべき役割:企業を動かすリーダーシップ
勤怠管理システム「勤労の獅子」が実現するスマートな介護両立支援
まとめ:ビジネスケアラー支援は企業の持続的成長の鍵

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1. ビジネスケアラー問題は「他人事」ではない:企業が直面する深刻な影響

    増加するビジネスケアラーの実態と「2025年問題」の衝撃

    日本は世界に類を見ないスピードで高齢化が進んでおり、その影響は私たちの働き方にも大きな変化をもたらしています。特に注目すべきは、仕事と家族の介護を両立する「ビジネスケアラー」の急増です。経済産業省の推計によると、2020年には約262万人だったビジネスケアラーが、2030年には300万人以上に達すると予測されており、これは家族介護者全体の約4割に相当する規模です。つまり、日本の労働力人口の約21人に1人が、介護を抱えながら働いている計算になります。
    この問題がさらに深刻化しているのが、2025年です。いわゆる「2025年問題」とは、団塊の世代が全員75歳以上の後期高齢者となることで、医療や福祉といった社会保障費の増大に加え、ビジネスケアラーの増加が加速すると予測されている社会課題です。この「待ったなし」の状況は、企業にとって、もはや「他人事」では済まされない喫緊の経営課題として認識されるべきでしょう。
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    介護離職が企業にもたらす経済的損失と人材リスク

    ビジネスケアラー問題が企業に与える影響は、決して小さくありません。最も大きなリスクの一つが「介護離職」です。特に、企業の中核を担う40代・50代の経験豊富な社員が介護を理由に離職するケースが多く、これは企業にとって即戦力の喪失を意味します。介護離職が発生すると、新たな人材の採用・育成に多大なコストがかかるだけでなく、残された社員の業務負担が増加し、社内のモチベーション低下やストレス増大につながる可能性もあります。
    介護による仕事への影響は、離職に至らない場合でも深刻です。日本総合研究所の調査によると、認知症の家族を介護するビジネスケアラーの50~77%が仕事への影響があると回答しており、認知症ではない家族を介護する場合でも23~51%が影響を実感しています。また、経済産業省の試算では、介護離職や生産性低下が原因で生じる経済的損失は、日本全体で約9兆円に上るとされています。個別の企業で見ても、例えば従業員数3,000名の大企業では年間約6億2,415万円、100名の中小企業でも年間約773万円の損失が発生するとの試算があり、これは看過できない経営リスクです。

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    出典:日本総研「ビジネスケアラー・ワーキングケア、特に認知症家族介護者の実態・意識等調査

    2. 2025年4月施行!改正育児・介護休業法が企業に求める対応

    法改正のポイント:企業に義務化された「介護離職防止」への取り組み

    ビジネスケアラー支援は、もはや企業の任意の対応ではなく、法的な義務へと変わりつつあります。厚生労働省は、従業員の仕事と介護の両立を支援するため、2025年4月1日に「改正育児・介護休業法」を施行しました。この法改正は、企業に以下の具体的な対応を義務化または努力義務化するものです。

    【2025年4月1日からの主な改正点】
    ●義務化:介護離職防止のための雇用環境整備(いずれかの措置) 
      ○従業員が介護を理由に離職することがないよう、企業は以下のいずれかの措置を講じる必要があります。
        ・介護に関する相談窓口の設置
        ・介護休業・介護休暇に関する情報提供
        ・介護サービスに関する情報提供
        ・その他、介護と仕事の両立を支援するための措置
    ●義務化:介護に直面した旨の申出をした従業員に対する個別の周知・意向確認  
      ○従業員から介護の申し出があった場合、企業は介護休業制度や介護休暇制度の内容、利用条件などを個別に周知し、従業員の意向を確認することが義務付けられます。
    ●義務化:介護に直面する前の早い段階(40歳等)での従業員への情報提供  
      ○従業員が介護に直面する前の段階(例:40歳になった時など)で、介護に関する情報提供を行うことが義務付けられます。これは、従業員が介護に備えるための準備期間を確保することを目的としています。
    ●努力義務化:介護のためのテレワークの選択肢の提供 
      ○企業は、介護を理由とする従業員に対して、テレワークの選択肢を提供することが努力義務となります。

    これらの改正は、企業が従業員の介護問題に積極的に関与し、具体的な支援策を講じることを強く求めています。

    介護に直面する従業員への「個別周知・意向確認」の重要性

    法改正で義務化された「個別周知・意向確認」は、単なる形式的な手続きではありません。介護を理由に退職した従業員の60%以上が、勤務先の課題として「介護休業を取得しづらかった」「会社の支援制度に問題があった」「事前に制度の詳細を個別に周知されていれば辞めなかった」といった声を挙げています。実際、勤務先に相談することさえできずに離職していった従業員も少なくないと推測されます 。
    日本総合研究所の調査でも、約87%の従業員が介護状況を企業に伝えているものの、一方で伝えていない従業員の多くは「伝えたとしても勤め先からのサポートが期待できないから」「勤め先からのサポートを求めていないから」という理由を挙げています。これは、制度の存在を知っていても、それが本当に自分たちを助けるとは信頼していない、あるいは提供されるサポートがニーズに合っていないと感じている可能性を示唆しています。

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    人事・勤怠管理担当者は、このギャップを埋める重要な役割を担います。制度を「持っている」だけでなく、それを従業員一人ひとりに「届ける」こと、そして「利用しやすい」と感じさせる環境を整えることが不可欠です。従業員が安心して介護について相談できる雰囲気を作り、個別の状況に寄り添った情報提供と意向確認を行うことで、介護離職という最悪の事態を未然に防ぐことができるでしょう。

    3. 介護と仕事の両立を支える具体的な企業支援策

    柔軟な働き方を実現する制度:フレックスタイム・テレワークの活用

    介護は突発的な対応が求められることが多く、従業員は時間の制約に直面します。これに対応するため、柔軟な働き方を実現する制度の導入は、ビジネスケアラー支援の柱となります。フレックスタイム制や時差出勤、テレワークの導入は特に有効となります。
    例えば、フレックスタイム制を導入すれば、従業員は介護施設の送迎時間に合わせて出勤時間を調整したり、午後の介護対応が必要な日に早めに退勤し、別の日にその分を調整したりすることが可能になります。テレワークは、介護者が自宅で介護をしながら業務を継続できる選択肢として、2025年4月に施行された法改正で努力義務化されたように、その重要性が高まっています。日本総合研究所の調査でも、企業の介護者向け制度で最も利用されていたのは「勤務時間を柔軟に調整可能な制度」であり、約64%の介護者が最も強く求める支援として挙げています。これらの制度を積極的に導入し、従業員が介護と仕事を両立しやすい環境を整備することが、企業の喫緊の課題と言えるでしょう。

    従業員の心理的・身体的負担を軽減する相談・情報提供体制

    社内相談窓口の設置と外部専門機関との連携

    多くのビジネスケアラーは、自身の介護状況を企業に伝えていない、あるいは伝えてもサポートを期待できないと感じています。この課題を解消するためには、従業員が安心して相談できる環境が必要です。企業内に介護問題に特化した相談窓口を設置し、専任担当者を配置することが有効です。
    中小企業など社内リソースが限られる場合は、外部の専門家との連携を活用することも視野に入れましょう。例えば、社会保険労務士と契約して介護休業・介護保険のアドバイスを受けたり、地域の介護支援センターと提携して従業員向けの相談会を実施したりするなどの外部連携も有効です。これにより、従業員は専門的なアドバイスを気軽に受けられるようになり、介護に関する不安や負担を軽減できます。

    介護に関する正しい知識を提供する機会の創出

    介護は、その性質上、多くの従業員にとって未知の領域であり、情報不足が不安や負担を増大させます。日本総合研究所の調査では、ビジネスケアラーが企業に求める制度として「正しい認知症を学ぶ機会」「家族の認知症を早期発見・診断するための支援」が上位に挙がっています。
    企業は、専門家によるセミナーの開催、eラーニング、動画コンテンツの作成などを通じて、介護に関する正しい知識や情報を提供する機会を設けるべきです。特に認知症介護は、その予測不可能性や進行性から、介護者の心身に大きな負担をかけます。認知症の症状や対応方法、利用できる社会資源に関する情報提供は、介護者の不安を軽減し、より適切なケアにつながるでしょう。

    介護休業・休暇制度の拡充と利用促進

    法定の介護休業・休暇制度に加え、企業独自の制度拡充も効果的です。例えば、法定5日の介護休暇を倍の10日に拡充したり、通常2年で失効する年次有給休暇を積み立てて介護休暇などに利用できる制度を創設したりする事例があります。このような手厚い制度は、従業員の不安を解消し、介護離職を防ぐ上で大きな助けとなります。
    制度を拡充するだけでなく、その利用を促進する文化を醸成することも重要です。制度があっても「使いづらい」と感じる職場では、従業員は利用をためらってしまいます。制度の利用実績を積極的に公開したり、利用者の声を紹介したりすることで、従業員が安心して制度を活用できる雰囲気を作り出すことが求められます。

    管理職の意識改革と組織文化の醸成:誰もが相談しやすい職場へ

    どんなに素晴らしい制度があっても、それを運用する管理職の理解が不足していたり、職場の雰囲気が利用しづらかったりすれば、制度は形骸化してしまいます。日本総合研究所の調査でも、経営者・人事視点での従業員の介護に対する優先度は必ずしも高くないという結果が出ています。
    企業は、管理職向けに介護と仕事の両立支援に関する研修を定期的に実施すべきです。この研修では、介護の現状や従業員が抱える具体的な課題、利用可能な制度、そして部下からの相談にどう対応すべきかといった実践的な内容を盛り込むことが重要です [6]。中外製薬株式会社では、社長からの介護支援制度利用奨励メッセージを社内報に掲載したり、管理職向けの研修を実施したりすることで、部下が安心して相談できる環境作りを上司の業務として遂行する文化を醸成しています。

    また、東京海上日動火災保険株式会社では、産業ケアマネジャーによる個別相談窓口や、介護中の従業員が悩みを話し合う「介護雑談部屋」を設置するなど、心理的サポートにも力を入れています。このような取り組みは、従業員の「困ったら相談してください」というメッセージを日頃から伝え、介護のスティグマを解消し、オープンな対話を促進することにつながります。

    4. 先進企業の成功事例に学ぶビジネスケアラー支援のヒント

    大企業における包括的な両立支援プログラム事例

    ビジネスケアラー支援を経営戦略の一環として、多角的なアプローチで支援に取り組んでいる企業があります。
    中外製薬株式会社は、「ワークライフシナジーの追求」を目標に掲げ、介護を含むライフイベントと仕事の両立を支援しています。専門家によるセミナー開催、介護個別相談の実施、両立に関する動画コンテンツの作成、紙媒体での情報周知など、多様なチャネルで情報提供を行っています。さらに、社長からの介護支援制度利用奨励メッセージを社内報に掲載したり、管理職向けの研修を実施したりすることで、部下が安心して相談できる環境作りを上司の業務として遂行する文化を醸成しています。

    東京海上日動火災保険株式会社は、「フルタイム勤務を維持しながら、仕事を通じて活躍できる両立体制の構築」を目指しています。産業ケアマネジャーによる個別相談窓口の設置や、介護コミュニティとして「介護雑談部屋」を設立し、介護中の従業員が悩みを話し合う場を提供しています。また、両立支援をサポートするポータルサイトやハンドブックの整備、両立支援セミナーの実施など、情報提供と心理的サポートの両面から手厚い支援を行っています。

    これらの事例は、単に制度を設けるだけでなく、情報提供、相談体制、そして文化醸成を組み合わせることで、従業員が安心して働き続けられる環境を構築できることを示しています。

    中小企業でも実現可能な「できることから始める」支援の形

    「うちのような中小企業では、大企業のような手厚い支援は難しい...」と感じる人事担当者の方もいるかもしれません。しかし、中小企業でもビジネスケアラー支援は十分に可能です。従業員数100名前後の中小企業でも、介護離職や生産性低下による年間約773万円の損失が発生するとの試算もあり、規模に関わらず対策は不可欠です。
    中小企業においては、リソースの制約から大規模な支援体制の構築が難しい場合もありますが、「できるところから始める」という意識が重要です。例えば、まずは社内相談窓口の設置や、フレックスタイム制やテレワークといった柔軟な働き方の導入から着手し、徐々に支援策を拡充していくことが考えられます。
    外部の専門家との連携も、中小企業にとって有効な手段です。社会保険労務士や地域の介護支援センターと提携し、従業員向けの相談会を実施したり、専門的なアドバイスを受けられる体制を整えたりすることで、限られたリソースでも質の高い支援を提供できます。人事担当者は、これらの取り組みを推進するリーダーシップを発揮し、企業全体で働きやすい環境を作るための中心的な役割を担うべきです。

    5. 人事・勤怠管理担当者が果たすべき役割:企業を動かすリーダーシップ

    潜在的なビジネスケアラーの把握と早期対応の重要性

    人事・勤怠管理担当者は、ビジネスケアラー支援において重要な役割を担います。まず、潜在的なビジネスケアラーの実態を把握し、早期に対応することが不可欠です。前述の通り、約13%の従業員が介護状況を企業に伝えておらず、その理由として「サポートが期待できないから」という声が挙がっています
    この状況を改善するためには、人事担当者から積極的に従業員に声をかけ、定期的なアンケート調査や面談を通じて、従業員の介護状況や潜在的なニーズを把握する努力をすべきです。また、「困ったら相談してください」というメッセージを日頃から積極的に伝え、相談のハードルを下げることで、従業員が問題を抱え込む前に早期に支援につなげることが可能になります。

    制度の「周知不足」を解消し、利用を促すコミュニケーション戦略

    日本総合研究所の調査では、企業の介護支援制度について、約67%の従業員が「不十分または周知がなかった」と感じています。どんなに良い制度があっても、従業員にその存在や利用方法が伝わっていなければ意味がありません。
    人事・勤怠管理担当者は、制度の「周知不足」を解消するためのコミュニケーション戦略を策定し、実行する必要があります。社内ポータルサイトや掲示板への制度掲載はもちろんのこと、社内ニュースレターやメール配信による定期的な情報提供、利用条件や申請手順の明確化が不可欠です。また、制度の利用事例を積極的に紹介したり、管理職を通じて部下への声かけを促したりすることで、制度利用への心理的障壁を取り除く努力も重要です。

    勤怠管理システム「勤労の獅子」が実現するスマートな介護両立支援

    柔軟な働き方や休暇制度の適切な運用には、勤怠管理システムなどのシステムの活用が不可欠です。「勤労の獅子」は、複雑な就業規則にも対応し、多様な働き方を効率的に管理できる勤怠管理システムです。フレックスタイム制やテレワークの導入・運用をスムーズにし、従業員の労働状況を正確に把握することで、人事・勤怠管理担当者の皆様の負担を軽減します。介護による負担増加の兆候を早期に検知し、個別フォローや制度利用の提案につなげ、従業員のウェルビーイングと企業の持続的な成長に貢献します。

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    まとめ:ビジネスケアラー支援は企業の持続的成長の鍵

    日本社会の高齢化が進む中で、ビジネスケアラー問題は企業にとって避けて通れない重要な経営課題となっています。介護離職による人材損失や生産性低下は、企業の競争力を大きく損なうリスクをはらんでいます。特に2025年4月に施行された法改正は、企業にこの問題への具体的な対応を強く求めており、もはや「他人事」では済まされない状況です。

    本記事でご紹介したように、企業がビジネスケアラーを支援するためには、単に介護休業制度を設けるだけでなく、柔軟な働き方の導入、相談・情報提供体制の整備、管理職の意識改革、そして従業員が安心して制度を利用できる組織文化の醸成といった多角的なアプローチが不可欠です。これらの取り組みは、従業員のエンゲージメントを高め、結果として企業のブランド価値向上や生産性向上に貢献します。

    人事・勤怠管理担当者の皆様は、この変革の中心に立つべき存在です。潜在的なビジネスケアラーの実態を把握し、既存の制度を積極的に周知し、従業員が気軽に相談できる環境を整えることは、皆様の重要な役割です。そして、勤怠管理システムなどのITソリューションを戦略的に活用することで、柔軟な働き方の実現と従業員の状況把握を両立させ、より効果的な支援につなげることが可能です。ビジネスケアラー支援は、企業の持続的成長を支える重要な鍵となるのです。

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